オーストラリアでは冬の終盤にあたる8月の晴れた日に、シドニーから北西方向に車で約5時間、約350km離れた地域にあるニューサウスウェールズ州の2件のオーガニックファームを訪れました。
今回訪れたファームは和牛ファームと卵ファームで、2件ともワイナリーが密集していることで知られるMudgee(マッジー)の北側のエリアに位置します。Mudgee(マッジー)はニューサウスウェールズ州では、Hunter Valley(ハンターバレー)に続いて美味しいワインの産地として有名です。
オーガニック和牛と卵ファーム視察ツアーのきっかけ
今回の視察の企画と手配をしてくださったのは、前回のシドニー近郊のオーガニック野菜ファームの視察の時と同じく、オーストラリアのオーガニック食品の専門家であり、オーガニック・フロム・オーストラリアの代表を務めるコールス和美(ワミ)さんです。
和美さんの活動について詳しくは、前回の視察の記事「オーガニック食品の専門家によるシドニー近郊のファーム視察ツアー」で紹介しています。
視察の一番の目的は、沖縄県の農業を学ぶ学生が体験学習できる機会を提供してくれるファームを探すことでした。前回の視察と同様、沖縄民間大使の比嘉恵子さんの要望により実現しました。
沖縄民間大使であると同時に、沖縄のラジオ「FMよみたん チャンスの女神」のパーソナリティー、沖縄料理研究家、5児の母、そして、身体を健康にする痩身ウォーキングレッスンの先生というマルチタレントの比嘉恵子さんについては、別記事「シドニー豪寿庵で本場沖縄料理ワークショップ開催」で詳しく紹介しています。
オーガニック和牛ファーム
今回視察したGundooee Organicsは、オーストラリアで最高級と称される和牛の畜産においてオーストラリアで最初にオーガニック認証を取得した数少ない肉牛のオーガニックファームです。
「オーストラリアなのに和牛?」と不思議に思う方もいらっしゃるかも知れません。牛の品種としての和牛はオーストラリアでも飼育されているんです。
「Wagyu」という高級ビーフのブランドとしてオーストラリアの消費者に一般的に認知されています。食肉としての和牛人気は年々広まるばかりで、今では多くのレストランや肉屋で普通に扱われています。
オージービーフは日本でもポピュラーですが、こちらはオージー和牛ビーフです。
ちなみに「ワギュー」って発音します。最近はレストランのランチメニューで、ワギューハンバーガーが流行っているみたいです。
Gundooee Organicの理念
和牛といえどもピンからキリまであります。オージー和牛の中でも最上級の和牛を育てているのが、今回訪問したGundooee Organicsファームです。
ファームのオーナーのロブさんは誠実で正直、かつ、ユーモアにあふれた素晴らしい人柄で、放牧している牛に対しても消費者に対しても倫理的な哲学を持っている畜産ファーマーのお手本とも言えるオージーでした。
ロブさんは、ご自身の道徳的信念に従って、自分が本当にやりたいことを仕事としているファーマーです。
利益を追求してビーフを売るというのではなく、本当の意味でのオーガニックファームとしての生産活動、そして、未だ気づいていない人たちが殆どであろうその活動がもたらす恩恵を業界および消費者に届ける活動をするという情熱があります。
ロブさんは、物事を実行するには「そのシステムを理解し、吸収し、学び、そして、受け入れながら忍耐で行っていくことが重要」とご自身の経験を通して語ってくれました。
一部の人たちには、「牛を殺すために育てている」と言われることもあるが、ここに来た牛には最高の環境で一日一日を自由にのびのびと生きてもらえるようにしていると言います。そういう意味では、牛を殺すのではなく、牛のライフ(生)をつくり出しているのだという信念をもって畜産活動をしています。
農業は土の中の微生物が要
牛たちが悠々と暮らす2000エーカーの広大な敷地は、20年前は何もない地だったそうです。
ロブさんは、和牛ファームを始める前に仕事としていた、土壌中の微生物を活用して農業に役立てる微生物農法(microbe farming)の経験を生かして、牛たちが生活する牧場の土壌に着目しました。
彼は現在も土壌の微生の調査・分析をする活動を、志を共にする他のファーム経営者たちとグループで行っています。
ロブさんが長い年月を通して実践してきた、最高の牛を育てるのに必要な相互的に関係する要素は土を含む以下の3つです。
1.土
2.牧草
3.牛
土壌中の微生物の数と種類の豊富さに気を遣うのが第一優先となります。自然で健康な土には数々の生命体、バクテリア、菌類を含む 微生物が生息しています。そういう土は耕さずとも柔らかく、植物がのびのびと生息します。
土壌が良ければ、多くの健康的な牧草が育ちます。生えてくる草の種類の豊富さも牛を育てるには大切なので、雑草も刈り取る必要はありません。
土壌に気を配ることで最上の牧草が育ち、そこに暮らす牛も栄養を摂取することができ、極上の肉牛に育つと言うしくみが出来上がっています。
更に、牛に対して何も特別なことをする必要が無く、人為的に食べさせて無理に太らせることもせず、一年を通して野外放牧という自然な環境で牛はストレスが無く元気に育つというわけです。
「栄養のあるおいしい肉牛が育つには、このように土壌から始まり牛が日々を健康に過ごすための環境が非常に重要だ」とロブさんは言います。ここまで環境を整えずにも、人工的につくられた飼料を使わなければオーガニックを名乗ることはできるけれど、それでは味も栄養もない肉となるということです。
肥沃な土壌作りが最優先させるべき要素であり、それに連鎖して栄養素たっぷり牧草が育ち、それを食べることで最高品質の肉牛が育つという、包括的なオーガニックの環境作りが重要だと言うことを多くの農業関係者と消費者に知ってもらいたいという情熱をもつロブさんの和牛ファームの視察レポートでした。
卵ファーム
次に訪れたのは、和牛ファームから1時間ほど離れたところにある卵ファーム、Clarendon Farmsです。案内してくれたのは、ブランドンさんです。
広い敷地で1年を通して24時間放し飼いにされ、野生の草を食べて育った鶏たちの産む卵は新鮮でとても美味しく、生でも食べられます。
オーストラリアの大手スーパーで売っている卵は、基本的に生では食べられません。
新鮮な卵は割ると黄身がプルンとして立つのに対して、スーパーで売っている卵の多くは黄身に弾力がなく重力に引っ張られてる感じがありますので、新鮮な卵を見れば一目瞭然です。
このClarendon Farmsの卵は、オーガニック・フロム・オーストラリアの和美さんのお墨付きで、和美さんのお店で買うことができます。
鶏たちはヒナのうちは生きるために温度調節が重要なので温度が保たれた小屋の中で生活しますが、成長してからは昼夜を問わず放し飼いです。
犬たちは鶏たちを外敵から守る役割をしています。
鶏は屋根の下に設置された巣箱の好きなところで自由に卵を産み落とします。若い鶏ほど一日にたくさんの卵を産むそうです。
卵の回収は一日4回。そのうちの日暮れ前の最後の回収に同行して、一緒に卵の回収をしました。
卵を回収するのに、ファーム内をバギーで走行しました。
お土産に産みたての卵をいただきました。一度食べたら忘れられない美味です。卵アレルギーのある子供もここの卵なら大丈夫という声も多く聞かれます。
さいごに
この日は超強行スケジュールでシドニーから日帰りしました。早朝に出て帰ったのは夜中でした。
帰りにファームの近くのMudgee(マッジー)で美味しいワインでも買って帰ろうと言っていましたが、視察が終わった頃には夜になってしまった為、営業しているワイナリーは無く、機会を逃してしまいました。
そんなことはどうでもいいのですが、メインのファーム視察は、今回も前回に続いて、学びと気づきが多く楽しい体験でした。
沖縄の農業を学ぶ学生の研修受け入れ先となってくれるファームを探している、沖縄民間大使の恵子さんにとっても満足のいく結果となりました。
これもオーガニック・フロム・オーストラリアの和美さんの人脈と行動力の賜物です。
和美さんが運営するオーガニック・フロム・オーストラリアのサイトURLと連絡先は以下の通りです。